正しいのか間違いなのか、私には判然としないが、日本のこの10年の金融政策は、安倍総理の圧力と黒田総裁下で、驚いたり失望したりの10年だった。いくつかの特色を並べ立てると、まず、

  1. インフレ環境にかかわらずかたくなに日本の一方的な金融緩和政策を取り続けた
  2. 安倍総理と自民党の方針に逆らえず中央銀行の自立の精神は失われた
  3. 直接市場に介入するあまり、本来の中央銀行の中立的である原則を破った
  4. 中央銀行の市場での直接株式投資はご法度なのに、景気を下支えるという原則維持のあまり原則を破った
  5. 全く異なる政策を取り、諸外国の理解は、というよりも国内の理解も得られなかった
  6. 為替の相手を敵視するあまり、トレイダーと戦った
  7. 2%という国民所得成長目標をかたくなに固持して失敗、日銀の硬直的な姿勢、などなど目に余る政策態度を続けた。

ついに10年という長い不毛な、もしくは困難な不況時代を経験して、新しい総裁が任命された。植田氏はどのような力量があるかはわからないが、私の直感では、ついに日本の政治の世界でも待望の金融テクノクラートを採用できた、という感慨がある。

欧州ではマリオ ドラギがイタリアの、そして欧州の、金融テクノクラートとして君臨してきた。そのドラギと一緒にマサチュセッツ工科大学で学び博士号を取った学者であるから、植田氏への期待は大きい

日本の政治の欠陥は一つに専門家がいかにも少ないということだろうか。医療とか電子とか、年金とか、税制とか、防衛とかには専門家が欲しい。この2年、コロナのパンデミックで大騒ぎした日本に感染症処理の指導の専門家がいたらどんなに国民が苦しまなかっただろうか、と考えるのは私だけではないだろう。テクノクラート不在の政治家たち、低いモラル、失言と汚職にまみれる閣僚たち、結果一向に上がらない選挙参加率、長い人生で一度も選挙の投票を欠席したことのないわたくしだから、こういう厳しい発言がゆるされるだろと思っている。