外国法人で働いていた時期に、どうしてもT社に投資したくないというネガテイブな反応を示していた私ですが、T 社そのもののチカラは評価しています。世界的な規模の車メーカーで、技術力も販売力も並はずれて優れています。世界中の自動車メーカーがT社を目標にしてきたことは間違いないですね。1990年代、私は「ポートフォリオにGMを保有していてT社を保有しないのは間違い。T社を保有していて、GMを保有しないのはうなづける」と表現したことがありました。

大まかに括っていえば、T社にはガバナンスの上で弱点があるということです。例のブレーキ事件の際、危機管理に不徹底だったT 社は対応には遅れに遅れていました。自社の内在価値とか社会的な存在価値、世界水準の経営力指向、経営モラル向上などを自ら理解するためには、外部の声、特に投資家、株主の声が必要です。自社を客観的に見る必要があるのです。先日決算発表の日、社外取締役の導入を「更なる成長のため」と表現したらしいのですが、そういうリンクがあると言えるのは、変です。そもそも製造、販売には世界に名だたる威力を持つT社が社外取締役の導入で、その部分を強化できるはずもなく、本音はどこに?とつい疑問を感じてしまうのです。

売上とか利益についてなんらの遜色がないT社は、もともと家族経営で、内向きの会社です。個性よりは団結を重視します。フェイスレス(顔のない企業)と呼ばれたこともありました。今までいやというほど、世界中の投資家から「欧米では普通のことなのに、なぜ御社には社外取締役がいないのか」と問われてきました。今や、外国人投資家にパワーを占拠された日本の株式市場です。その外国人投資家から突き付けられた宿題をいよいよ果たすという時期に来たのでしょう。その行為はつじつま合わせと言ってもいいでしょう。

T 社の経営陣がガバナンスについて理解しているとは思えません。もし理解していれば、すでに社外取締役は存在していたわけですから。ガバナンスを無視できるような時代ではないということをやっと気づいたと言っていいでしょう。企業モラル、株主のための経営、フェアデイスクロジャー(完全開示)、ROE 経営などの視点を必要としている日本企業はいまだ上場企業の48%しか社外取締役がおりません。T 社のトップは経団連につながっていました、そういう人材がいるにかかわらず、ガバナンスが弱いと思われているのです。売り上げ、利益のためではなく、企業価値を高めるという必要性が問われているのです。T 社の株主総会の発表を新聞でつぶさに拾い読むとき、T社は社外取締役導入については勘違いしているかもしれないと思わせるところがあります。ちなみに、2013年3月期のT社のROEは7.6%、GMは20.3%でした。