私企業の持ち株会社としてようやく上場した「日本郵政株」は郵便局の親せき(日本郵便、郵貯銀行、かんぽ生命)、など3社の代表会社ですが、日本郵政の株式投資を進める個人投資家は、まったくのところ、困惑しているのです。上場のいきさつは小泉総理大臣時代から人口に膾炙されて、いまさらですが、上場後もなかなか民間企業色が出せません。何しろ日本郵政株の80%はいまだ市場に出回っていないで財務大臣名義のままですから。

その一部を年内に売却するという方針が出て、株価は暴落しました。そして、解説者はなるべく高い値段で売りたいというに日本郵政の意向を伝えています。なんということだろうか、と私は政府主導の株式市場を暗たんたる思いで見ているのです。売りたい人は高く、買いたい人は安く手に入れたいのはあたりまえ。しかしこの意向とか希望は個人投資家は高値で買ってくれと、いかにも郵便局寄りで不公平はなはだしい。しかも、売り出して利益が出たら、東北大震災の援助金とするようなことを言っています。

不幸な人を助けるという方針には、もっとものところもあり、声を上げて反対できないので、小さな声で反発しますが、私企業の多額の利益を寄付することは株主に対しては裏切りではないでしょうか(無論株主の総意が賛成であれば異論なしですが)。どうも腑に落ちないのは、今度の方針の発表で株主側に立った論評がないのが気にかかります。かつて東北大震災の際、ヤマト運輸は160億の寄付を復活のために支出しました。それは素晴らしい行為ですが、私の知り合いのアナリストは、「株主に所属するはずの利益を寄付してしまっていいものか」と株主の権利を擁護する発言をしました。私はなるほど鋭い着眼点だと感心したものです。

つまりこの国では、何らかの美徳行為によって株主権が平然と失われているのです。今回の日本郵政の方針も既定の事実とはいえ、株主権が公然と無視されていると感じてしまうのです。長い間投資家に代わって大株主を代行してきた私はそのように見てしまうのです。