わたしがファンドマネジャ—だったころ、また今でも変わりなく守られている企業のモラル評価の中で、「不祥事を出す会社は、また同じことを繰り返す」と学んだことがあります。企業には体質というものがあって、それがネガティブ遺産として代々伝わっていくのでしょうか。

当時私はIRJ 社に請われてアドバイザーのような役割を引き受けようとしました。IRJ社と私の最初のミーティングで私が受けた質問は「御社が保有している日本株の名前と株数を教えてください」ということでした。私は大型のアメリカのファンドに籍を置いて資産運用をしていましたので、 質問の意味はすぐ分かりました。つまり、「アドバイサーというのは名ばかりで、実は企業秘密を聞き出したい」ということがIRJ社の本音だったのです。

本来はこの鶴野—寺下ラインで作ったIRの助言をする会社は、私をスパイにしてなかなか入手できなかった企業秘密を聞き出そうという魂胆だったのです。私の会社は規模が大きかっただけに、日本株の保有状況を聞き出すことは大いにIR社には意味があったと思われます。それ以来、嫌気が差したわたしはIR社とは付き合っていません。「二度あることは、、、」の原則がこの度発覚して私は自分の時代を思い出していやな気分に襲われています。あそこもやっぱりそうかという思いです。アメリカの企業で働いていた私は、当時日本企業が押しなべて、モラルが低いと思っています。私は日本人として、別に日本を代弁する必要はないのですが、恥ずかしい思いをすることが多かったのです。

IRJ 社は設立の趣旨からして、日本企業の未成熟なディスクロージャーを進めるために助言するという重要な役目を負っていたと思います。私自身も外国の投資家の立場で、日本企業にIRを充実してもらおうと心がけていました。それがこともあろうに、率先して指導に当たるべきIRJ社がインサイダーインフォーメイションでひっかるとはまるで警察官が泥棒をしたようなものです。昔、アガサ クリステイーの推理小説に「実は警察官が犯人だった」という内容の作品がありました。私はこの作家のファンとして、読み終えるまで、すっかリ騙された記憶があります。そうまでして読者を欺くのかと腹立たしい気持ちにもなりました。

今、裁判官が裁かれたり、警察官が逮捕されたりする報道も見て、内心 人権が守られ、正義が貫かれる社会がいかに大切かをかみしめます。