何事も逆転劇というものがありますが、1位と2位の逆転となれば世間は大いに沸くのです。オリンピック、野球、競馬そして 株式市場でも、そういうドラマは日常茶飯事です。私は初めは三井物産の自社株買いの発表にはそれほど驚かなかったのですが、このところ“これはこれは”と驚きを隠せません。一方で、三菱商事の反応については”相変わらずだな“と失望します。
もともと日本特有の事業である「商社」については、なかなか評価がしにくく、外人投資家の質問にもまともに答えられないほど、難しいのです。そして、商社株は常に市場平均に比べて割安に放置されています。何回も考えました。なぜ商社株はもっと評価されないのだろうかと。専門のアナリストも適切な説明ができないのです。商社株は市場ではPERにしろ(8倍程度)、配当性向にしろ(25%程度)、と市場の平均より低く、かつ、配当利回りは高いのです。
企業価値は商社特有の多岐にわたる事業展開で、なかなか把握できにくいのです。事業の性格からして、もともとドンブリ勘定でやってきました。持株関係のある関係会社(投資先)は500社以上もあります。誰もグループ実態のすべてを把握しているようには思えません。ただ国民経済的には非常に重要な役割をはたしていて、食糧、原油の輸入や、自動車、機械の輸出など、特に我が国とってなくてはならない存在なのです。年間の取り扱いは大手で20兆もあります。いわばGDPの代名詞みたいな存在です。
それでも、よく理解できないのは、「自社で物を作っていないで、他社の事業に資金を投資する」からでしょう。ともあれ、最近三井物産が4000万株の自社株買いを表明しましたが、その反響は意外と大きかったのです。考えてみればそれはそうなんです。いままで商社が投資家を意識してきたとは到底思われず、なんのメッセージも発していなかったのですが、このたび三井物産はなぜ自社株買いをするか、明確に説明できました。「資源などへの投資が一段落したので、株主への還元を考える時が来た」と、今まで(やむを得ず)軽視してきた株主への利益分配を考えるということです。
以来、株価は上げ始めて、次第に三菱商事の株価に接近し始めています。つまり、投資家が気づいたこと、それが投資家の目を覚まさせて、割安に放置されていた株式を投資対象として考え始めたというわけです。そして、もっと厳しい事件がありました。2013年の9月、物産株は住友商事株とほぼ同じレベルにまで追いつかれていました。下品な言い方ですが、尻をつつかれたのですね。かつて、NEC対富士通、日立対東芝、トヨタ対日産、武田対三共などトップ2社の間で熾烈な戦いがありました。そして時には株価の逆転現象ありました。逆転の決め手は必ずしも利益のみではなく、ガバナンスのありようでもあったかと思います。いま物産は「自社株買い継続する、ROE をさらに高める」とはっきりとしたメッセージを投資家に送ってきました。商事は全くどこ吹く風のような姿勢です。218円と168円と利益水準は商事に分がありますが、昨年の9月に500円差が開いていた両社の株価は(商事2000円水準 対 物産1500円水準)、今や350円にまで縮小してきました。つまり、投資家は物産にはプレミアムを払う気持ちになったことですが、この変化はとにかく旧来の商社への認識を変えるためにはインパクトとなります。