関係者はたぶん必死の思いでしょう。今から12年前、フランスの食品会社ジェルベ ダノンがヤクルトの5%のステイク(株式)を保有してから、もう数年が経っています。ヤクルト内部ではやれ買収されるだとか、やれ乗っ取りだとか、大騒ぎだったろうと推察します。ダノンとヤクルトは友好的に付き合って契約を結び、結果ダノンの株式保有比率がただいま20%までに増えています。つまり、20%まで保有されても、法的にヤクルトの経営の根幹が崩れることはないということです。ダノンはさらに35%まで出資比率を上げて、共同経営とか、技術提携を進めようとしています。
ここでの私の問題意識は、決してダノンが悪いとか、ヤクルトを守れとか言ったたぐいのものではないのです。ヤクルトという食品会社がどういう道を選択したらより優れた経営ができて、かつ成長が続くかということなのです。言い換えれば、会社もメデイアもあまり議論していない「投資家、株主の視点」で論評することです。多くの株式保有の問題において、わが国ではすっかり忘れ去られる視点、それは一般株主の利益でしょう。ヤクルトはシロタ博士が創立した、75年の歴史ある同族経営と思います。よって株主イコール経営者なので当然株主の利益が経営者の利益に結びついていますが、一般株主にとっては、強力なダノンが経営した方が成長力が高まるかどうかがカギとなるでしょう。
日本と東南アジアで成功した薬品のようなドリンクが、手慣れたそのテリトリーを脱して世界のヤクルト(もしくはダノンブランド)になれるか、また乳酸菌を活用した新しい健康食品が開発されるか、私たち一般株主も興味津々たる思いでヤクルトを見つめています。買収とか合併は常に困難や混乱が伴います。そういう時こそ、強いリーダーシップ、また経営センスが問われるのですね。今の時点では喧嘩になるTOBを期待するのは、間違いでしょう。しかし20%という持ち株比率はやや中途半端という印象です。
私はどちら側に加担するつもりもないですが、ヤクルトに世界的食品会社(例:GF,ユニレバー、ネッスル)になろうとする野心があるか聞いてみたいものです。さらに、両社の経営者には、更なる交渉、買収の経過の中で、一般株主の利益が考慮されていくのかも聞いてみたいですね。株式投資をするときには、企業ガバナンスが問題になりますが、その一つには、株主の利益という側面が議論されなければなりません。今回は、一つの有力なモデルケースです。ダノン、ヤクルト両方がそこを抑えながら、話を進めているものと信じています。