今頃何を言っているのか、キャノンはもともと優良企業ではないか、と反論される方もいるでしょう。そういう方も含めて最後まで読んでください。キャノンは70年も歴史のあるカメラ事務機の会社です。しかし、日立同様、長い間日本のマーケットでトップ企業、社風もあたたかい家族主義を貫いてきました。雇用を大事にすること。バブル時代に難しい雇用の確保をするための哲学はそういうところにあったと思えます。しかし、国際化が進み、また長いデフレを経験して、キャノンは体質が変わったとおもいます。
それは何か。それは「世界で通用する経営哲学を取り入れた」ということです。キャノンは製品を世界中で売っている会社です。時代とともに視野が広がってきました。どう変わってきたかと言えば、まず家族主義とおさらばしています。成果主義を取り入れています。株主の利益も考えています。世界のトップ企業を意識しています。つまり欧米の一流企業と比べても、遜色のない企業に育ってきました。経営陣にはソニーのようにスタープレイヤーはいないようですが、経営哲学は優れているように見えます。現会長兼社長も、販売会社の会長も社長もアメリカ育ち。企業ガバナンスを身に着ける格好の環境だったと思われます。
多くの日本企業で、外国育ちの経営者が成功しているのを目撃している私は、キャノンの経営布陣はまことに心強く見えるのです。ぬるま湯を嫌い、激しい競争を通じて、会社の筋肉を強くする、まさに外国企業がやっている経営の手法を取り入れています。キャノンは通信もコンピューターも苦手にしています。というよりも、複写機やファックスの事務機、カメラ、半導体露光装置(大手の一社)などが世界のトップを走っています。つまり利益を生み出すのが非常に上手なのです。
最近顕著なのは、連続した自社株買い、不安な時代にも増配できる体力、視野を広げた経営哲学、などですが、こういった特色は今の日本企業には不足していて、キャノンの株主としては安心して保有でできる投資先でしょう。では、欠点はどこにもないのかと言えば、そうでもないとも言えます。後継者が見えない、寡占、独占の事業を後進国が追いつくかもしれない、パテントで固めている製造部分を新しい技術がひっくり返すこともあり得ます。
キャノンは大会社だから、成長には限界があるなどと言う方もいるかもしれません。しかし、世界の仲間に入って比べてみると、キャノンの時価総額は3.7兆、IBMの16.2兆に比べればいまだベビーではないでしょうか。それよりも、そういう比較ができること自体楽しい議論と言えるのでしょうね。