昆虫は概して、気持ち悪い。たとえ子供に人気のクワガタ、カブトムシでさえ、好きということはない。けれども、どうしても愛してやまない昆虫がいる。それは 別称イエグモで、本名はアダンソンイエクモ(ハエトリクモ) という直径1センチほどのちいさなやつだ。新居に引っ越してはや3か月経ったが、昨夜私の目の前の白い壁に、このクモが突然現れた。クモという昆虫は糸を張る種類とパトロールしながら餌を取る種類がいて、イエグモはパトロールしているのだ。

パトロールしながら、ゴキブリのたまごを見つけたり、ハエ、ダニを捕食したりする。人間にとってはまさに、味方なのだ。だから私は多摩市のマンション内でイエグモを見つけても決して殺さなかった。それよりも、手に乗せて遊んだりしていた。蜘蛛は私の掌の上で、パニックにならずにただうろうろうごいていた。子供のころイエグモを捕まえてマッチ箱に入れて飼っていたことを思い出す。

昨夜、私は台所にいた妻に「アレ、イエグモがいるよ」と教えたら「そう、ほっておいてね。ダニをやっつけてくれるのだから」と 言っていた。ユーチューブを見てみたら、イエグモがハエを捕食する動画があった、それはそれは、なんと、素早いのだろう。パトロール中、目の前2-3センチの距離にハエがいると、ぱっと飛びついてはハエを食べてしまう。私は、パトロール中のイエグモの目の前に自分の無骨な手、ユビを持ってゆく。すると、このクモはそこで止まって、躊躇したり方向転換をしたりするのだ。おとなしくて、かわいい。

蜘蛛はどう思っているかは知らない。しかし私は イエグモを友人と思っている。かつて家の中にいたイエグモを何回かペーパーを滑らしてその上にのせて、外の植え込みに移したことがある。何しろとても小さいのだ。「気味の悪い蜘蛛」という昆虫の常識をはづして、手足は短く、愛敬さえあるのだから、嬉しいではないか。胴が少し太く、目玉は大きい。アダソンという学者は200年前にアフリカでこのクモを見つけたと言われている。このイエグモ君、いつの間にか、我々の生活圏内に住み込み、また引っ越し荷物の中に潜んで旅を楽しんだようだ。