ジャン シメオン シャルダン(1699-1779)は古い画家で、宮廷のお抱えみたいな立場で絵をかきました。つまりフランスの王立アカデミーの会員でした。ちょうど国王ルイ14-15世の時代です。彼の静物、風俗絵画は18世紀のフェルメールと言われ、ルイ15世とかロシアの女帝エカテリーナ2世に寵愛されたのです。イチゴの絵、リンゴの絵、そして血を流している捕まえたウサギの絵などが代表作ですが、歴史のなりゆきのとおり、彼の絵はルノワールやセザンヌなどの印象派に影響を与えました。
三菱一号館そばを通りかかった時に、ひまつぶしというか、1500円を払って(少しお値段が高いような気がします)館内を一回りしました。大きさは何号というかタテヨコ50-70センチくらいの小品が多いです。つまりこじんまりした作品中心だったということです。面白かったのは38作品の中に同じ作品が数組あったことです。案内によると、いちど描いた絵を何年かあとにもう一度描きなおしたというのです。じゃ、片方だけ出したらいいのではないの?と聞くのは野暮というものです。同じ場所に掛けた2つの作品は時代的には10年くらいのずれがあって微妙に違っているのです。こういう作品をレプリカとかヴァリアント(焼き直し)とかいうのです。
私は妙に興味をそそられて、右と左の作品を比べました。首をきょろきょろさせたり、数歩だけ後戻りしたり。説明をよく読めばその展示のポリシーが読めてきて、観客は前後にうろうろするはずですが、私のほかにもう一人ノートを取っていた、学校の先生風の人が行ったり来たりしたほかは、だれもおかしな動きをしなかったのです。そうか、みんなスルーなんだ(例:ゴルフ用語で、ランチを食べないで18ホールプレイしてしまうこと)。そうか、私たちは絵は見ているが、絵の意味には関心がないんだと理解しました。それはそれで私的には文句はありません。
それぞれに鑑賞のスタイルがあるわけです。赤瀬川源平氏は「展覧会を見るときは、ポケットに数億円入れたつもりで見てくる。そして一回り30分ぐらいで十分だ」と言っています。これ、言いえて妙ですね。私的にはこの日は1億円くらいしかもち合わせなかったのですが、結局シャルダンの絵は買いませんでした。笑
長生きしたシャルダンは腎臓結石とか黒内障に悩まされたそうですが、この時代に80歳まで長寿を全うしたのですから、たいしたもんだ、と思いました。