本屋では 毎年、「本屋大賞」がにぎにぎしく着飾って売りに出ている。そのことは知っている。ただ私としては、作品には出会いたくても、小説にはあまり興味がない。ましてそれが「お涙ちょうだい」的な小説であればなおのこと。今回、用があって、2018年の本屋大賞「ひと」を購入した。作者は小野寺史宜という。
本屋大賞は極端な性格を持っていると思う。いわゆる感動ものであって、お涙ちょうだいでもある。読者は「感涙にむせび泣きたい」と思っている。感動したい、泣きたい、喜びたい、つまり、感情に流されたいのだ。それゆえ1500円もする小説を買うのだ。私は本屋大賞を批判する気はない、ただ分析しているだけだ。今回、若い人に読んでもらいたいと思って、内容も確かめないまま、思いつきで、出会い頭に買ったのが私にとって、初めての本屋大賞であるが、読んでみると、内容は私が偏見を持っていたまさにそのものであった。
主人公は私と生活のコントラストがあまりにも違いすぎて唖然とした。
主人公の年齢は20歳、私は82歳。大学中退―私は卒業。彼は両親そろって無くす―私の父親は長生きした。職業は惣菜やでアルバイトー私は会社に就職した。趣味は楽器のベースー私はほぼなし。お人好しで、好人物。人から何かを頼まれるといやとは言えない。野心はない。金を貸してくれと言われたらなけなしの貯金からまわしてやる。親友から部屋を貸してくれと頼まれると、合いカギ作ってやる。引っ込み思案で女性側から口説いている、いいやつ、好ましいやつ、お金がないので毎日節約する。
読み進んでいるうちに、こんな人物って架空だなと思いながらも、いったい行く末はどうなるのと心配になる。そしてダサいセリフをだらだらとしゃべって生活もいい加減うんざりするうちに、ついに、最後まで読んでしまった。つまり、私は作家にはめられたのだ。
こんな無私の人間はいるわけないよな、地上に降り立ったお釈迦様みたい。そこで多くの読者を泣かせて、ベストセラーになり本屋大賞を取ったわけだ。主人公には野心はなかったが、作家には強い野心があったのだ。