ベルギーの画家ルネ マグリットについては、前から気にしてはいましたが、今回初めて展覧会に顔を出しました。梅雨空のもとで、今にも降り出しそうな六本木でしたが、国立新美術館は絶妙の空調で私たちに楽しい時間を提供してくれました。ルネ マグリットは1898-1967という時代で、20世紀の代表的画家という触れこみですが、画風は経歴の出だしからアブストラクトで、私たちが生きている自然の秩序の 距離とか、上下関係、重量比、視野、とかの、常識をすっかり外して、空想世界を提示しています。つまり帽子の上に人がいたり、空間に人間が浮いていたり。山の上の宇宙的な場所に岩が浮いていたり、昼と夜の境い目がないもの、女性のボデイだけのオブジェに顔が無く髪のみがついていたり、まあ、やりたい放題、というか空想の赴くままに、マグリットのワールドを描いています。

特に似たような作家が少ないという立場もあります。ただポール デルボー(1994没)もやはりベルギーの生まれなので、後継者ともいえるかもしれませんが、「夜の汽車」など見ると、まさに同じDNaを感じます。汽車の操車場にヌードの女性を立たせた、デルヴォーの技はまさしく、マグリットのものでもあるような気がします。

どの絵をとってみても、上下が逆だったり、鏡に映したように描いてあったり、会場に押しかけていたとりわけ目立つ若い女性のうちの誰かがが「なんだか、わかんない」とつぶやいているのを耳にしました。わかんない絵を見にくるのは なぜ?と聞きたくなりますが、絵は、また写真も、わかんなくて当然ですね。女性は基本、矛盾だらけの世の中を生きていますが、それでもしっかり成長します。整合性など無くてもいいのですね、女性の場合は。と私は独り言をつぶやきます。

いま、ちょっとだけ、写真という趣味でいきずまっている私は 生意気にも、「何か打開できるのではないか」と思ってマグリットの会場に駆けつけましたが、鑑賞の後は気持ちはよかったのですが、打開というほどのこともありません。出口で妙齢の女性が声をかけてきました。よく聞いてみると マグリットのリトグラフを売る、売り子だったのですね。目の前に展示されているおなじみの絵は、お値段は、なんと、60万でした。