府中の森には公園、美術館のほか芸術劇場というものがあります。そこで、ウイーンホールという音楽堂(パイプオルガンがどーんと飾ってある)での、コンサートに行きました。古いピアノを使って、バッハの曲などを30人くらいでかわりばんこに一日中引くという催しものです。舞台にはピアノが3台置いてあって、現代ピアノ、17世紀のピアノ、18世紀のピアノと計3台陳列。
私の知人のアマチュア ピアニストは真んなかに置いてあった薄緑色のピアノに腰を下ろして、バッハを引き始めました。いまどきのピアノとは違って、チェンバロと呼ぶその頃のピアノは打楽器の音ではなく、ビンビンと響く弦楽器の音を出します。つまり、私は700ほどの席の一つにゆったりと座って、楽器の違い(変遷)を目にしながら、古今の音の違い(音律の変遷)を耳で経験したということです。
そういう音の環境を経験したことがない私は、とても気持ちよかったです。「そうか、バッハやモーツアルトはこういう音で、宮廷の王様たちを慰めていたのか、何とも優雅ではないか」と、まさに主催者が目論む演奏会開催の狙いに見事にはまったのです。ブルーのドレスをまとったピアニストは、緊張しながらも、優雅な身振りで、しっかりと演奏しました。私は、一方、楽譜に忠実にピアノを弾かねばならないという「彼女のまじめさ」はおいといて、18世紀の音と環境の素晴らしさいしばし酔いしれました。それで十分でした。
趣味にはいろいろありますが、私は、家庭を守りながら、このような趣味を続けられる幸せってありだなと感慨無量でした。そういう空気を感じ取ったのですから、楽音の影響は大きいなと悟って夜のとばりの中に帰路に附きました。ありがとう。