この人、聞きなれない名前ですね。私もここ立川市の住宅式老人ホームに転居してから、施設の中に立派な図書が集められているロビーデザインに感激して、(こういうのって好みだなー)とふと手に取ったのが「All About Saul Leiter」という写真集で、今まで聞いていた周りの日本人写真家の下馬評を思い出して、納得したり、そうではなかったり、驚きの一日を過ごしました。
昨年 アメリカはNYの写真家ソウルライタイーの写真展が上野で開催されていましたが、私は格別な関心もなく、見逃していました。また、友人の写真家も「まあまあだったかな」といったようなあいまいな評価でした。いまAll About…という写真集を手に取ってみて、なるほどこういう撮り方なんだ、とスタイルには共感を覚えました。
普通職業写真家ならば、女性のモデルは正面とかアップとか、もっとも美しく映える角度(条件)でシャッターを押します。ところが、この人、どういうわけかへそ曲がりで、NYでバリバリの女性モデルを後ろとか、背中だけとか、首とか、斜め上からとか、建物の影でとか、足だけとか、まあ撮りたい放題に捻じ曲げて撮ります。そして「モデルを撮るよりはボナールでもみていたほうがましだ」などとほざいて、嫌われています。つまりど真ん中の写真家ではないということです。
ソウル ライターは写真家ですが、結局は芸術家なんですね。モデルのヌードなども、まるで、こっそりと盗み撮りみたいな作り方をします。それも一興ではありますが、やはり堂々とモデルと向き合って撮るという作風の方が共感が得られやすいでしょう。彼のお得意の作品は、雨の裏通り、傘の中の人物、水たまりに映る人の影、ガラスドアの内側にぼんやりと映る影、などなど、まったく普通の取り組み方ではないのです。
よって、作品の多くは色が、そしてピントもボケています。そこが彼の個性ということになるのでしょうか。最近星野リゾートのホテルモデルに、応接間の周囲の壁を本棚にしてしまうという、工夫が取り入れられています。一方、ここの施設では、多分 フランク ロイド ライトの建築思想を取り入れて、立派な書籍を置くことで、ロビーに新鮮な空気を作ろうとしたのでしょう。問題は、どういう書籍を飾るかということです。そこで建築家の力量もわかってしまいますね。