わたくしの時代では、私はサッカー少年ではなかった。それにサッカーボールをけったこともほんの数回だった。けれども中村俊輔は好きだった。44歳の天才キッカーもついに現役を引退するときが来た。たくさんのファンがさよならと言っている。私もその一人だ。

左足のFK(フリーキック)はまさに天才の名をほしいままにした芸術である。あまりにかっこよくて涙が出そうになる。わたくしのように何も知らないサッカーファンでさえ魅了してしまう彼の動作とは、まさに人間がいっぱいいっぱいのチカラとワザで左足でゴールを狙うときはこれだという超美技なのだ。彼の完璧なバランスの取れたシュートの写真を見てわたくしは、なんと美しいのだろうかと今でも感慨にふける。

わたくしがノートのような日記を書くようになったのは、ある日のシュンスケのTVインタヴューである。彼は安物に見える、そう、小学生とか中学生が日常に使うようなノートを膝の前に何冊かおいて、どうやって日記を書いているかとか試合の模様また教訓とか説明していた。わたくしもそれをまねて学校の前にある文房具屋に立ち寄って、似たようなノートを数冊買ってみた。それがわたくしの物まね絵日記の始まりだった。ある日のTVインタヴューで、調子はどうかと聞かれ、「フツーです」と答えた。そうだ、MVP賞を二度も取ったスポーツマンにとっては当たり前だ、とわたくしは共感した。

俊輔の対応は、全く不愛想でつまらないものだった。それでいいのだとわたくしは思った。私たちの資産運用の業界で、年初に「今年はどんな年にしたいの」と聞かれたあるアメリカ人のファンドマネジャーは「別に、いつもと同じさ」と答えた有名なはなしあり。そうだ、それなんだ、プロという職業では「普通が」大事なのだ。それ以上にファンや読者に何もお世辞はいらない。普通にやって仕事を成し遂げる(やることはやる)だけである。

今やセルティックの緑のユニフォームが懐かしい。思い出す。横浜のスポーツウエア店で、このユニフォームを求めたわたくしは、「もうありませんよ」と冷たく断られた、くだんの店員が恨めしかったこと。シュンスケはいずこへ行く。マリノスの監督か。名選手が必ずしも名監督ではないということ、世の常識だが、それでもお願いしますね。