「グレイトサミッターとして8000米以上の14座すべてを登った偉大な登山家は世界で29人らしいが、その中についに日本人ではじめての竹内洋岳が加わった。2012年夏である。NHKの番組がその記念すべきダウラギリ登頂を放映して、彼を祝ったが、視聴者である私も痛く感激した。ちょうどその前にさかのぼること3時間で山梨テレビは山梨県の山を特集していて、その中で73歳の女性サミッターである渡辺玉枝さんを紹介していたので、2012年の8月16日は二重の驚きと感激を経験した。

当然だが、私は高い山に登るには体力が第一と思い込んでいた。自分のつたない登山経験からもそう思い込んでいたわけだ。しかし、渡辺さんのように普通の小ぶりのおばあさんを見ると、なにかが違うと思わざるを得ない。何がヒマラヤ登山を成功させたのだろう。無論準備、仲間、ガイド、天候など多くの要素が絡み合っているのは間違いない。運さえも味方につけたのだ。けれども、もうひとつ、私は決してないがしろに出来ない要素を発見した。

それはなんだ。それは「気力」ではないかと思う。途切れることのない気力がないと、あのような高い山は登れない。生半可ではムリだ。ヒマラヤでは目的の山に登る前に、何週間もアプローチに時間を使う。カトマンズを出て1ケ月もかかって、登山口に着くこともある。その時間が大切なんだ。「その時間が登山者に覚悟とか心構えを植え付け」心の準備をさせるのだろう。そういえば、私たちが高い山に登る前には「決心」のようなものがあって、出発時には顔が引き締まっていたのだろう。へらへらしていては、山には登れない。

しかし、心が決まっていれば、思わぬ力や耐久力が生まれるとも思う。後で考えて、よくもあんな高い山に登ったなと述懐することがあるが、登っているときはそれどころではない。一生懸命なのだ。だから登れるのだ。それが今にして分かったので、私は、ある意味、大器晩成のモデルかもしれない。