近所の医者に行ったら、事務の女性が少し抑えた声で電話していた。「すいません。予防ワクチンは今切れていまして、もうすぐ入ると思いますが、予約はできません」と。そして、返す刀で、私に言った「80歳以上の老人は接種できます」と。
つまり老人用には在庫があって、一般の方には在庫切れですと言いたいのだろう。いったい、冬が来るのがわかっているのに、我が国は、年に一回は冬の季節だ、予防ワクチンのように国民的な予防薬を用意できないとはなんということだ。切腹ものだぞ、と私は少々怒った。
ワクチンをしてもしなくても、まだ一度もインフルエンザに罹ったことのない私は、体調を整えて、ついに仕方なく接種したが、このかかりつけの病院の女性院長先生は評判のテクニシャンで、私が雑談して気づかないうちに私の上腕に注射を打ってしまった。「はい、おわり」「え・もう終わったの。うーん、この人天才だ」と注射のうまさに舌を巻いた私でした。評判だけある。ただ普段注射は看護婦さんが打つので、なかなかこの腕前に出会うということはないが。
さて、話は6年前にさかのぼる。ある土曜の夕方、家人は出かけていない故ひとりで留守番をしていると、突然のように私の体温が上がって、背中が痛くなった。熱は38.5度ほどに上がっていた。私は これはインフルエンザに違いないと、決めつけると、すぐに救急車に連絡をとった。何しろ救急車との付き合いを覚えておかないと、これから老人一人のお留守番はできないと、戦略的な思考を思いついた。救急車は空いていたらしくすぐに玄関に現れた。
稲城病院の診察カードを持っている私は、稲城病院に行くように救急車の隊員に支持をした(無論どこの病院に行きたいか聞かれたからではあるが)。病院では検査をしたがタミフルなんかを期待していたのだが、なんと、宿直の若い医者は「インフルエンザではないですよ、高熱は風邪らしいですね」と驚くべきセリフを吐いた。そして、付け加えた「困りましたなー。風邪ごときで大事な資源(救急車のこと)を使うとは」と小言を言いはじめた。
私は、強気に出て言った「先生、明日は我が家の長男の結婚式です、風邪だろうが、インフルエンザだろうがどうしても直さなければならないのです」と。
先生「そうですか、ならばしかたないですね」と折れた。どうやら先生にも年頃の子供がいたらしい。