富山市から高山本線で25分、越中八尾に出向きました。目ざとく気づいたキ120はデイーゼルカーです。なんとものんびりした線ですが、通勤時間を過ぎて車両1両のみの編成で運転手さんも暇そうなのですこしおしゃべりをしました。越中八尾駅に降り立つと目の前のタクシー会社、なるほど、八尾の町まで相当歩かされるのだなと察したところ、なんと、3キロの下り―登りを歩くことになりましたが、町並みがちょっと変わっていて退屈はしません。空気としては、ここが「越中風の盆、もしくは、おわら風の盆」の本場だろうなと思わせる風情です。石を重ねたがけっぷちに家が建っています。大きなお寺がそびえています。また家々の屋根瓦は真っ黒です。大きなぼんぼりが街角に一定の間隔をもって並んでいます。
八尾の町は全体として黒とか茶色に統一されて、見事に秩序をもって保存されています。そうですね、きれいすぎる町並みです。この街は210日、つまり台風の季節に五穀豊穣を祈って踊るのを習慣としています。その踊りが、今や全国あまねく知れ渡った「風の盆」というものです。300年もの歴史ある踊りは、笛、太鼓、三味線、尺八、胡弓などなんでもあれというおおらかなもので、町を挙げての大騒ぎです。諏訪町、東町など町内会の青年団がこの行事を支えていて、外部の人(例:外から嫁入りした女性)とか26歳以上の人は踊れません。浴衣が貸与されますが、男女とも総数が限られていて、伝統文化である風の盆は拡張型ではなく、形式定固型なのです。古い行事をゆるくしてガタガタにしないで、かたくなに守っているようです。あらゆる意味で阿波踊りの真逆に位置していると思ってください。
笛や三味線の音、を背に大きな編笠をかぶった女性はうつむき加減にユックリと踊ります。それは何とも言えない情緒があるのです。私は2-3年ほど前にこの行事を知った後、この女性の顔も見れない「おわら風の盆」に、惹かれました。風の盆は9月1-3日ですが、狭い八尾の町は全国、海外からの訪問客のためぎっしりと満員で、動きが取れないと言われます。私はお祭りとか、踊りとかにいままで興味がなかったのですが、無論込み合っているとなると、三社祭りも、暗闇祭りも興味がないのですが、今回は9月上旬ではないものの、すっかり本気になって八尾を訪問して撮りました。
観光会館には大きな(高山祭にそっくりな)鉾が3つ飾ってありました。坂の多い八尾の町をどうやって引き回すのか、気になります。そして私一人で DVD を見せてもらい、本場の踊りを8分間堪能しました。便利な世の中になったものです。私は、デジタルカメラを携帯していましたので、よく聞く ISO 12800 に設定して、上映中のDVDをスナップしてみました。それなりに写っていて、デジタルカメラ(フジフイルム社のX-20)の威力を確認しました。
何やらもの哀しい音色、ゆったりした踊りのフォーム、うつむき加減の編笠に隠された表情、何をとっても私の、というか男性の、関心をひかずにはおれません。心がうずくのです。しかし、本物に出会うにはわずか9月1日からの3日間です。そこで何かお知恵はないかと、町の人に聞きました「それなら8月20から31日までが前夜祭なので、その時期に来られるといい、練習風景もわるくないですよ」と教えてもらいました。とりとめのない会話も旅の香辛料ですので悪くない。