24年もの間、競馬界、特に武豊騎手を取材してきた作家の島田明宏がいまここに武自身の、そして武との交友の歴史を明らかにした本です。父親の時代からそうですが、武豊は只者ではないのです。競馬を知っているファンはとっくの昔にソレは知っています、というか、特別だと感じていました。私も武がデビューして16年目に競馬に復帰しました。きっかけは、1998年、武が雑誌か新聞に「スペシャルウイークはダービーが取れる馬ですね」と説明したからです。

2009年くしくも武は似たようなせりふを吐いています。「これはダービーを狙える逸材だ」と、無論その馬はデイープインパクトのことでした。そして見事にダービーで自身の4勝目を飾ったのです。さらに続きがあります。デイープの血を受け継いだ数ある名馬のなかで、武が復活ののろしを上げたきっかけになった名馬は「キズナ」でした。この記事原稿を書いたのは5月2日です。天皇賞春(京都 3200米)まで後わずか2日です。私はキズナを武の特別な武器と考えて、キズナから「馬単流し」を付き合うことにしています。

この本は読者にそういうことをさせる熱気、情熱、こだわり、がいっぱい詰まっているのです。今の時点では天皇賞春の結果は分かりませんが、ほかにフェノーメノ、ゴールドシップ、などのG-1馬と、ウインバリアシオンのようなG-1を取っていないダービー馬、加えてホッコーブレーブ、デスペラード、レッドカドー(外国馬)などの有力馬もそろっています。

さて、決断 の帯には「誰も書かなかった武豊」とあり「天才の苦悩、逆襲、確執、ドン底からこうして這い上がった」とあります。この本を読んだからといって馬券がうまくなるわけではないですが、天才騎手の普段着の人間性、仕事への姿勢、ひたすら上に向かう気持ち、などが紙面にほとばしり出ています。只者ではないとおもいます。勝負に生きる男でもあります。また弱い内面は見せたくない、鍛錬している自分は秘密にしておきたい。

サラッと馬に乗って、涼しい顔をしてゴールに飛び込みたい。

この本には武の美学が島田明宏によってちりばめられています。私はもともとあまり好きではなった武ですが、本を読むことによって余計な考えは不要だと気づきました。これからは、武と馬が強いときは、私も無心に彼の馬券を買うことが出来ます。