写真教室の飯島先生は日ごろ撮影場所の設定に頭を悩ましています。年配ばかりの写真学校の生徒が楽に到着しやすく、また撮影して意味がある、映像としても美しいような場所を選びますが、今回は新装改築の「水天宮とその周辺の街」ときまりました。

久し振りの晴天に恵まれて、私たちはいそいそと出かけました。最初の驚きは、水天宮はかつてののびやかなたたずまいは無くなって、ビルに囲まれた「神事をつかさどるビル」に変装していました。砂利が敷いてあって、ハトが何かをついばんで、乳母車がゆっくりしていたかつての風情は全く消えて失せ、今は24段の急なコンクリの階段を登らなければならない厳しい環境にかわっていたこと。

カメラ片手に水天宮をゆっくり撮りながら、江戸の風俗のかけらでも得たいと思いましたが、とんでもない。おなかに赤ちゃんを授かった若い女性や赤ん坊を抱いたご主人がコンクリの急な階段を上ったり下りたり。乳母車を抱えてコンクリの階段をのぼるご主人、私たちはそれを見ていてハラハラしました。もしこの24段の階段の上り下りで転んだら、、、事故にもなりかねない。

女性や赤ん坊に優しいはずの水天宮が、逆に危険な場をさらしている矛盾に気づいた私たちカメラの同好の士たちは心から怒りました。ビルの横にはエレベーターの出入り口があることにきずいたのですが、それを利用する人はほとんどいません。お金のために、建礼門院以来、本来備わっているはずの真心を失った水天宮、いつか天罰があるぞと、胸を痛めながら撮影会は打ち上げになりました。