これほどイギリス人魂を表した行為はないだろうといつも思っている。第二次大戦はなやかなりしころ、ドイツ軍は勢いを駆ってイギリス、フランス軍をフランスはダンケルクの浜へと追いつめた。圧倒的に強いうドイツ軍は、イギリスはチャーチルをして、撤退するしかないと決断を強いたのだ。

それには伏線がある。侵攻するドイツはもちろん、イギリスも劣勢をなかなか建て直せないで、結局はドーバー海峡のこちら側、つまりイギリス本土での英独衝突は避けられないと読んでいた。そこで、イギリス軍30万(ほかにフランス軍5万)の本土への引き上げは、戦略的なお意味を持つ。しかし、もしそのときダンケルクに終結したイギリスの大群をドイツは本気で攻撃していたら、大勝利を得ただろう。つまり歴史は書き換えられたかもしれない。

しかし、ヒトラーはロシアの東部戦線に気持ちが集中していて、そこのところの戦略的な意味(大群の兵隊をたたく)に気づかず、35万の兵士をみすみす海の向こうに引き上げさせてしまった。クリス ノーラン監督は、映画「ダンケルク」を実録として、わずかな資源(人間、爆雷、船、飛行機など)を駆使して、ヴァーチャル画像は全く使わないで、荒涼たる海岸沿いに逃げ惑う兵士たち、雲の中から舞い降りる数機のドイツ爆撃機(ユンカースかメッサーシュミットか)、また。わずか3-4機のスピットファイアが抗戦する様をロールスロイスエンジンの甲高い回転音とともに画面をとことん緊張させていた。

一時間半のあいだ、音声は、スピットファイアの機銃の響き、逃げ惑う漁船のエンジンの悲鳴、兵士たちの阿鼻叫喚、緊張を保って最後まで、観客の心をワシつかみにしていた。そして、なんと言っても、崇高だったのはイギリス兵の歯を食いしばって我慢する姿だった。心に復讐を誓って、降りしきる爆弾を避けながら、次の機会を待つという姿勢。指揮官の断固たる態度、イギリス人は戦争では優れた資質を発揮すると思っていた私も、そこはなんとしても、我々大和民族には欠けた資質ということをまた学ぶことになった。つまり、われわれ日本人は人道的、民主的な環境は作れず、多くの兵士が狂人のようになってゆく悲しき性格を抜け出せないということである。