五輪の開催が決まって、すでにいろいろなアイデアが取沙汰されていますが、なかでも“電柱の地中化”にはもろ手を挙げて賛成します。国交省はオリンピックをきっかけとして、日本の都市電線網を地下に埋めようとしています。まあ、一般論では賛成ですが、私は常日頃から、観光立国を目指して外国から客を呼ぶのなら、わが国はまず電線を埋めたらどうかという意見をもっています。狭い国土、特に一般道路事情の貧困なわが国では、電柱をなくすことがいかにメリットがあるかもっと真剣に考えてほしいのです。

言うまでもなく、まず人の往来が楽になって、車と人身の事故は減ります。ほかにも、救急車などの緊急車両の通行にもプラス、それにむろん都市部はじめローカルの環境を良化します。言うことなしですが、地中化については、経費のことが常に問題になって、行方に立ちはだかっているようですが、私は、経費をかけてもそれに見合うリターンはあると思っています。「美しい日本とあたたかなおもてなし」とは外国観光客を呼び込むためのキャッチフレーズですが、日本中電柱だらけでは、美しい日本は掛け声だけに過ぎないのではないかと疑問を持ちます。

私の所属する写真の会で日本の片田舎とか、地方の都市、さらには都会の真ん中などいたるところを写して回りますが、主幹の飯島さんがいつも愚痴るのは「電柱がジャマだ、また青い工事用のビニールが邪魔だ」ということです。せっかくの美しい景観も電柱があっては台無しだし、また青いビニールが画面に入っては写真になりません。ある意味都合のいいクレイムですが、視点を変えてみると、電柱が地上になければもっと美しい日本の都市と田園風景を観光客にアピールできるのですね。

観光立国論となると、すぐにお土産とか、得意な地方料理とかが話題になります。私は、それは的外れな議論だと思っています。外国からの観光客は確かにそういった要素を評価はしますが、欧州などで成功している観光事業を見ると、まず(1)町や村が清潔できれいなこと、(2)老人たちが手をつないでそぞろ歩きができること、(3)その行き着く先には古い伝統的なものや、文化遺産が保存されていること、(4)時間に合わせて特色のある、しかし、同時に一般的な食事と喫茶が用意されていること、たとえば「箸を使うほうとうと、手に持ってなめるアイスクリーム」のような。

そのためには電柱はない方がいいです。そぞろ歩きの部分が広くて長くて、周りの景観(山や木や森や小川、田畑、寺院など)が和みがあること。私は、関係者に強く訴えたいのです。外国人の観光客が何を好み何を嫌うかを調べてみませんかと。わが民族の“もともと苦手な”市場調査を十分にすれば勝算ありですが、観光のために特別にお金をかけることではなく(空港の中の贅沢なレストランのような)、日常的に異文化を経験してもらうだけでもう満点ではないかと思うのです。外国人は特別な神様ではないですが、言葉とかトイレ情報とか、最低必要な条件も考えておかなくてはなりません。星野旅館ではなく、浅草のような下町の宿屋を使って楽しく旅行している外国人が多いのはなぜでしょう。