山梨県は北杜市に伝説の小学校があります。それが津金学校(ツガネ)と言います。白とブルーに明るく生える校舎は明治6年創設のあと、明治、大正、昭和の100年にわたり、日本最古の擬洋風学校建築として栄えました。春には校庭の周囲を桜の花が咲き誇り、西洋風の美しい校舎とともに今や名所として、多くの人々を呼び寄せています。

ところで、この校舎を北にさかのぼること2キロほど、清里に向かう峠の下に「海岸寺」(かいがんじ)という臨済宗の古びたお寺さんが密かにたたずんでいます。開山が西暦717年となっていますので、今から1290年ほど前のことです。この寺を創建したのが、僧 行基だそうです。行基は(たぶん)宗教の布教のために日本中を回って、農業や林業を普及させたのでしょう。山の中に海岸寺とは、なぞかけのような気分です。

いうなれば行基は今日の日本農業の父ということになるのかもしれません。場所柄武田の一族とは縁がありそうですが、寺を信長に焼かれた後、最後は家康が寺の存続を救ったとも言われています。お寺の周囲は昼なお薄暗くて、あの世に一歩近づいたのかも、と思わせるところがあります。この寺は、100観音の石仏が安置されていますが、西国3十3か所、坂東3十3か所、秩父3十3か所、を代表する観音様が見られるわけです。

表情の豊かな石仏を見ていると、妙に心がざわめいてきて、不安になるのは私だけでしょうか。「この寺は観光のためではなく、信者の心を見直す場所として、存在している」というまじめな言葉が書いてあります。観光を否定してしまうのは、一部お金の亡者と化したような奈良京都の寺の反対をゆくということ、道理で貧乏な風情のお寺さんだとおもいました。