自分の代りに何か偉大なことを成し遂げる人。田中陽希(たなかようき)はその一人です。NHKがスポンサーをしている登山であり、また旅行でありの冒険を本格的な登山家の田中が成し遂げる新しいエンタメをNHKのカメラが追いかける。まるで、ヒマラヤ登山をカメラマンが一緒に登りながら映像を追いかけるのと同じ趣向ではありますが、私のようなお茶の間ファンにはたまらなく魅力的な番組です。

田中陽希はものすごくタフでほとんど走りながら、山のふもとに近づきます。登山道に入ると息せき切って足早に登りはじめ、決して緩みません。NHKのカメラもきっとハアハア息を切らせて横で撮影しているのでしょう。数年前には日本100名山を一筆書きで(歩き始めから終わりまで区切りなく歩くこと)登り切った(歩るききった)と思います、今は日本300名山を登り始めているようです。そして8月上旬の放映では中国地方の三瓶山(さんべさん)から初めて、1000米級の続く中国地方の山を、相変わらず走って登っています。その途中、大きな地震に出会っています。

私は100名山を、何年かかけて登り切った弟の大次郎とは違って100名山を完登する馬力も熱意もないのですが、いつの間にか35山まで登ったところで、気持ちが途切れて機会を失いました。今ではテレビの番組が私の「100名山登山」の身代わりをやってくれています。田中陽希はそういう意味で、私の分身をやってくれているわけです。グレイト トラヴァースは私にとって、今や貴重なドキュメント番組となりました。日本全国に散らばる老人たちも私と同じように、テレビで身代わり登山を楽しんでいることでしょう。

田中陽希は素晴らしい若者ですが、私はかれの活躍をテレビで見ながらいつの間にかラインホルト メスナーを思い出しています。1980年代にメスナーはヒマラヤ8000米級のすべての14座を無酸素登攀した大登山家ですが、同時に哲学的な思考ができた素晴らしい男でした。今では、時代が移って田中陽希が登場、メスナーのように成長してくれるといいな、とひそかに願っています。