朝目覚める。なにか周囲が変な感じ。南八ヶ岳高原の朝が静かすぎる。じーっと耳を凝らすと、いまだ明るくなり切らない空とつめたい空気の中で、時々風がおきて、梢をゆらしている。一瞬、ザーっという風の音を聞く。いよいよ台風9号があらわれるのだ、と覚悟を決める。

高原は台風9号が通り過ぎる道筋の西の端に当たり、中心からは、はづれてはいる。今度の夏台風は、真夜中のテレビの天気予報の情報によれば、勢力は975 ヘクトパスカル、風速20メートル、かつ速度は時速30キロ、言ってみれば小型である。風速が台風かいなかの資格基準なので、これは台風としてはぎりぎりのサイズであって、これ以上弱ければ、当然熱帯低気圧と呼ばれるはずだ。

いま木々の梢を揺らしているのは、風。風はこのたびの台風の斥候、と言うか先兵でしょう。つまり、最先端のエネルギーなのだ。風はすぐになくなって、周囲は再び静かな高原に戻る。私は、傘も差さずに、帽子だけかぶって外に出る。そうです。台風の最先端の空気を、冷たさと、強さと、、、密度を全身で感じ取りたかったのだ。

地上から俯瞰すると、八ヶ岳高原の南側は既に厚い雲に覆われて暗い。一方北側は、いまだ晴れていて赤岳や権現の山頂も見えている。あと2-3時間で八ヶ岳はすっかり雲に覆われて雨がしとどに降ってくるのだろう。いつもうるさく鳴いている鳥たちは、どこかに去ってしまい、静かである。時々さーっと通り過ぎる風、そしてぱらぱらと落ちてくる雨。額にあたる雨をぬぐってなめてみた。少し塩辛いのは自分の汗の味だろう。

これから午後、夕方にかけて、この高原は台風のしるしである激しい雨と風に覆われて、白樺の木々やカラマツ林をゆらすのだ。私はそうなったら腹を決めて、暗くなった室内に灯りをつけて、ふと、遠くにいる家族の安全に思いをはせて読書に気持ちを集中させようか。