久しぶりに八城さんのお話を聞いてまた感心しました。もはや75歳で現役を離れておられますが、かくしゃくたるもので、ユーモアを交えた面白いお話には、セミナー参加者は何回ともなく、うなずいたり笑ったりしました。有能な指導者ですから引退して盆栽などいじくっている場合ではないのですが。八城政基氏はエクソン、シテイバンク、新生銀行、中国銀行などをCEOもしくは役員として歴任され、立派な業績を残しました。日本企業の問題のあるところに政府から招へいされるというケースが多かったようです。

八城さんは海外の企業の役員そしてローカルのトップを何回も経験されているため、非常に視野が広く、眺める日本企業社会が、閉鎖的な、もしくは島国的な社会と映るようでした。八城さんは本社の取締役でしたから、本場の役員会や社外取締役会を経験されています。日本ではなじみの薄い社外取締役の活動や存在意義についても、経験豊富で会の機能や運用は熟知している。そのことが日本の経営者が八城さんに関心を持つ理由になっているのは確かです。

八城さんは日ごろ日本語と英語の両方で日記を書いています。日記帳はロンドンエコノミスト誌製のものを使っているのです。それだけでもたいしたものだと思います。西洋と日本文化をまたにかけたこの紳士は、文化の理解を深めるための最初の入り口として言語を習得するしかなかったと思います。2000年にシテイバンクのトップに就任したころは日本の銀行が月次決算をしていないので、役員は毎月の利益額を知らないし経費がわからない。女性の制服が総合職と一般職が違うのでおかしい。MIS(Management  Information System)がなかった。などの欠点に気づいたのです。

さらに、アメリカの銀行と日本の銀行とのビジネスモデルが違うということも指摘しています。日本の銀行は収益の柱を産業金融に依存しているのに対して、アメリカの銀行は資産運用とか、消費者ローン、クレデイットカードなどの事業にスイッチして高収益を上げていたのです。アメリカの銀行が資産の利益率が1%-1.5%はあるのに日本は0.3%程度しかない。つまり100兆円の資産に対して3000億くらいしか利益が出ないのですね。人材についても、日本は雇用が硬直的でいったん採用したら無能な人材も整理できない。給与も均等であって競争はがない。経費率がさがらないと言っています。資本も日本の銀行が脆弱だと指摘しました。銀行の合併に際して大型のコンピューターが重荷になっていると。異なるソフトを整合させたりしなければならないので5000億も使うことになるので、時として合併話が破たんすることもある。シテイバンクはインド人を雇ってパソコンを使うことによって、IT問題を解決してしまった。本来の経費の5分の一くらいである、と言っています。

銀行経営について素人だった八城さんは、エクソン時代に鍛えた経営の知識と経験をもって大胆な経営上のアドバイスは数限りないとは思いますが、日米の差は如何ともしがたいと思ったのです。