私の知人に芸術を生業とする人がいます。Kさんといいますが、コロナの渦中にあって、一つの変化を読み取っています。それは個人事業主の立場が変わってきたようだということです。絵画とか写真、また工芸品をなりわいとする芸術家は、作品の評価を他人に任せています。いくら自信があっても『どうだこれは俺の作品だ、いいだろう』と人様に売り込んでも、あまり評価されないのが今の日本の社会だといいます。芸術作品の評価ほど難しいものはそうはあるものではないです。ふつうは発表会とか展覧会とかでお披露目しますが、つてを頼んで、バイヤーという方たちにお披露目などをします。また個人的にはスポンサーというか、パトロンというか、そういうお金持ちのような人に作品を売り込んだりします。

最大の難点は、日本には石油王ポールゲテイーのようなおお金持ちがいないということです。ゲテイーとかビルゲイツのようなとてつもない成功者が多数いるアメリカでは、作品はもとより、作者という人物をまるかこいのように買ってしまうことがあり、結果、トラの皮ではないが、その作品が世間に評価されて、作者の死後、評判になることが多いのです。まあ、芸術はわからないでも、お金に任せて買いまくるといえばいいのでしょうか。ある大手企業にはインテリア担当(兼任だったが)の役員も存在した。

日本では芸術作品のバイヤーは大手企業、ホテル、レストラン、式場、空港などの施設では総務部長など、いわゆるキュレイターではなく普通の上級職が責任を持っているようです。その人たちは芸術は全く理解できずに、値もつけられない、ただ予算で仕分けしていることが多いそうです。芸術家はそういう実情を見てがっかりしているようです。そのあたりの機微は最近日経新聞の「私の履歴書」欄に登場する芸術家が面白おかしく話してくれています。

今回のコロナ騒動で、舞台に出る役者などは「我々も職業を持っているので、公に職業として認めてもらいたい。声を大きくしてもいいだろう」と訴えていました。言ってみれば、役者稼業も 一個人事業者 ということを役所にも世間にも理解してもらいたいという切ない声なんだろう。