わたしの年齢になると、今から48年前のニクソン米大統領の時代に、議会がニクソン大統領を弾劾裁判(インピーチメント)にかけようとしたことが、何だか、懐かしいような響きを持ってくる。この事件は現職の大統領が自己の利益のために電話の盗聴を仕掛けたり司法長官を首にしたり、まさに憲法の危機をもたらした一連の行為を弾劾している。ニクソンを追い詰めたのは、(よくできたニクソン事件の)映画を見るまでもなく、二人の新聞記者であった。ただその結果、ニクソンは罪になる前に自ら大統領の座を退いた、つまり辞任したのである。

今回の「トランプ大統領」のペロシ下院議長による民主党議員の弾劾はさらに根が深い。すでにこれで大統領就任期に2度訴迫されたのはアメリカ議会の歴史始まって以来初の不名誉な出来事となる。今回の訴迫の動機はトランプ大統領が先日の大統領と共和党支持者の議会占拠が民主主義の危機にあたるとしたのである。現職の大統領がその地位を利用して、テロ行為(やや大げさには聞こえるが)を誘発したとなれば、これからトランプは前回の大統領選挙という自己の利益のために選挙結果(選挙という民主主義の手続きを破って)を覆そうとする、革命、もしくは反民主的活動を主導したのである。

アメリカは常にペロシ議長が最も重視しているように、民主主義こそが国を支える根幹の規範である。として常に擁護している。アメリカ合衆国という国家は 常に民主主義に立脚して存続していると。よってこの民主主義が根底から揺らぐことは許されないと考えるのだ。ということであれば、トランプの存在はまさに危機といわねばならない。トランプは約40パーセントの共和党支持者を背景に、自己の選挙の正当性を主張していたが、もはや議論の段階を超えて、暴力に訴え始めたと解釈ができる。それほど民主党の議員(50人全員)と10人の共和党の(反トランプ議員と立場を鮮明にした共和党議員)議員の計60人が弾劾派となるようだ。あと数人が反トランプに立場を鮮明にすれば、この弾劾は成功する。

大統領任期中はペンス副大統領が、トランプのあとを継ぐのだが、すでに次期大統領として

バイデン氏が決まっているだけに、ペンスの道はない。アメリカは今や不幸な国となってしまった。しかし、民主主義を死守する限りはアメリカの復活はありえないことではないと私はこの短文を結びたい。